2017年11月にミラノで行われたモーターサイクルショーEICMA2017にて、カワサキが新型のスポーツツアラーを発売することを発表した。二輪で唯一スーパーチャージャーを搭載しているフラッグシップモデルNinja H2をスポーツツアラー仕様にしたモデルでスタンダードタイプの「Ninja H2 SX」とハイグレードの「Ninja H2 SX SE」である。日本でも日本仕様版の発売が決定しているため、気になるスペックや仕様をまとめておく。
1.外観、デザイン
外見から入るのもどうかと思うが、かなり特徴的なデザインでわかりやすい部分なので最初に紹介しよう。
Ninja H2もかなり存在感がある前衛的なデザインだったが、その流れをちゃんと引き継いでいることが一目でわかる。前面にはスーパーチャージャーへとエアーを取り込むダクトがついており、その間にヘッドライトがひとつある。また、H2はカウルボトム部分がないハーフカウルだったが、H2 SXではツアラー向けということもあり、フルカウルとなっている。見た目の重量感も実際の重量も上がっている。
カラーバリエーションはモデルそれぞれで1種類ずつ。H2 SXは「メタリック・カーボン・グレー/メタリック・マット・カーボン・グレー」でブラックベースのカラー。H2 SX SEは「エメラルド・ブレイズ・グリーン/メタリック・ディアブロ・ブラック」でグリーンを取り入れたカラーリングである。
Ninja H2 SX↓
Ninja H2 SX SE↓
実際に実物を見ないとリアルな色合いはわからないのだが、SEの色合いは他のモデルに通常使用されているブランドカラーのグリーンと比較して深い色合いになっている模様。タンク以外はさすがに金属素材ではないだろうが、塗装技術も進化しておりプレミアム感が増している可能性もある。
2.スーパーチャージャー搭載エンジン
エンジンの基本Specは998ccの直列4気筒だが、注目したいのはやはりスーパーチャージャー。H2にも搭載されていたが、作動する回転数が異なっているとのこと。
今更ながら、そもそもスーパーチャージャーとは何なのかという点から説明しよう。簡単に説明すると「過給機」と呼ばれる装置の一種で、エンジン内に空気を多量に取り込ませることで酸素濃度を増やしガソリンの燃焼量を増加させるもの。元々は飛行機用のエンジンで開発された技術で、酸素濃度の薄い上空でも十分な出力を得られるようにとの目的だった。
四輪の分野で「ターボチャージャー」や「ターボエンジン」という言葉を聞くことがあるが、あれも過給機の一種。スーパーチャージャーとターボの違いは、空気の取り込み方式。スーパーチャージャーはエンジンの駆動系と過給機の駆動系統がベルトや歯車などのメカ機構で直結しており、エンジンで発生した力の一部を直接使ってコンプレッサーを動作させる。それに対して、ターボの場合はエンジンから排出される排気ガスが外に出て行く力を使って過給機のタービンを回し動作させる。スーパーチャージャーのほうが、エンジンと直結しているため力の伝達が容易で、動作条件の細かい調整や動作した際の実感が得やすくできる。
スーパーチャージャーの方式も数種類あるのだが、H2の場合小型化が容易な遠心式というもの。構造はシンプルでエンジンの駆動系等の一部がいくつかのギアによって過給機のインペラと接続されており、インペラを回すことで空気を取り込むというタイプ。
H2のインペラ。直径69mm、12枚のブレードを持つインペラ。圧送能力は、200リットル/秒、吸入気のスピードは秒速100m、その時の圧力は大気圧の2.4倍になる。
H2 SXのインペラはよりマイルドで乗りやすくなるように新形状となっている。
H2 SXのインペラ。基本形状は69mm,12枚ブレードで変わらないが、ブレードの角度など、よりマイルドな出力になるように調整されている。
インテークチャンバーに関しても見直されている。インテークチャンバーはインジェクションにより霧散され生成された混合気を一時的にためておくためのエアタンクのようなもの。低、中速域でのトルクアップが期待できるが、H2では6Lの放熱性に優れたアルミ製チャンバーがついており混合気自体の放熱の役割も持っていた。
H2 SXでは形状を変更し、より低、中速域での効率が良くなっていると同時に、1L小さいもの(6L→5L)となっており重量も500g低下させている。スロットルバルブの径もφ50mmからφ40mmに変更されている。
驚くべきは圧縮比の向上。H2が8.5:1だったのに対してH2 SXでは11.5:1となっており、エンジンの燃焼効率が向上している。当然燃費も良くなっており、H2よりも約25%も向上すると予想されている。カワサキの発表では、Z1000SX(日本版はNinja1000)やVersys1000と同程度になるとのことで、欧州スペックシートでは5.7L/100kmと記載。リッターあたりに直すと17.5km/L。おそらくWMTCモード値のはずなので、日本での(60km/h・定地燃費値、2名乗車時)の値だと23.0km/L程度だろう。高速道路で渋滞もなければ実測でも20km/L近く出ると予想できる。タンク容量が19Lなので15L使用で給油したとすると300km走るごとに給油となる。大型バイクとしてはスタンダードな値なのでH2からはかなり改善させている。
燃焼効率の増加に伴い、排気口から排出する空気量も低下してくる。同時にエンジン動作の静音性が上がり、エキゾースト機構を軽量、小型化できる。マフラー2本出しだったH2に対してH2 SXは先端にいくにしたがって細くなるテーパード形状で1本出し。容量も10Lから7Lに小型化しており、2kgの軽量化に成功した。
3.シャーシ構造
フレームは格子状の鋼管トレリスフレームだがNinja H2とは大きく異なる。そもそもH2のフレームはテール部分がなかったが、H2 SXは強めの傾きでテールにかけて立ち上がっている。
タンデムシートがついており最大積載量も195kgと大容量に対応。オプションで付けられるパニアケースも片側28Lの容量でフルフェイスメットも収納可能。クリーンマウントシステムを採用しており、アタッチメントなしで取り付けが可能となっている。
ホイールベースは1455mmから1480mmになっており高速道路での直進安定性が向上。その分小回りがきかなくなっているかと思いきや、ハンドル切れ角が27°から30°に増加しており小回りにも対応させている。低速時も高速時も快適性が上がっているわけだ。ウインドスクリーンは長く、速度を出してもライダーを風から守る。
サスペンションは電子制御が噂されていたが、実装されなかった。前後手動調整が可能なフルアジャスタブルサス。フロントはφ43mmの倒立タイプにラジアルマウントのモノブロック対向4ポットキャリパー+φ320mmディスクを組み合わせる。ハンドル上部のつまみによってサスのコンプレッションやダンピング調整が可能。
リアは、H2と同様のKYB製モノショックを採用。コンプレッションは低速/高速の2way調整が可能である。これに加え、素手でイニシャル調整が可能なリモートアジャスターも装備する。リアのディスクは250mmのものを使用している。
ホイールにはH2同様アルミベースとなっており、特徴的な星形のパターンも健在。SEタイプには高級感が出る切削加工がされており、より目立つ仕様となっている。
H2 SX↓
H2 SX SE↓
タイヤサイズはフロントが120/70-17、リアが190/55-17。H2よりもリアタイヤは10mm細くなっているが、取り回しや小回りもやりやすくしているのだろう。
4.快適な装備が充実
システム系統では川崎のスポーツツアラーとして初めてクルーズコントロールシステムを搭載。パワーモードなどがハンドルについているスイッチ類で調整できるようになっている。コーナリングでの出力を最適制御するKCMF(Kawasaki Cornering Management Function)も採用。IMU(Inertial Measurement Unit)と呼ぶセンサー類とコンピュータによってコーナリング時のエンジン出力を最適化する。
また、SEモデルではカワサキとして初採用のフルカラー液晶を搭載している。タコメータは伝統のアナログ系。さらにSEモデルではツーリングとスポーツの表示パターンを選択でき、ツーリングモードでは車両の状態をグラフィカルに表示する。レッドゾーンは12,000rpmからとなっている。
H2 SX↓
H2 SX SE↓
シートは前述したように2人乗りが可能なようタンデムシートが装備された。日本仕様モデルはシート高が低くなっており、日本人向けに足つきも良くしてある。SEモデルはスエード調+ステッチ加工が施してあり、プレミアムな仕様になっている。
H2 SX↓
H2 SX SE↓
SEだけの特徴として大きな部分がLEDコーナリングライト。カワサキ初の採用となりH2 SX SEの特徴ともいえる部分。カウルに左右3つずつのLEDを持つパーツが組み込まれており、コーナリング時の車体の傾きを検知してLEDが点灯する。SSタイプでもSTタイプでも、通常ヘッドライトはカウルの一部に組み込まれているためハンドルを切っても照らされる方向は変わらない。夜間にはコーナー先の視認性が悪くなるのだが、その点をコーナリングライトでカバーする。傾き(10°、20°、30°)によって点灯する部分が異なり、照らすべき方向も最適化されている。
H2 SX SE(左)とH2 SX(右)
さらにSEだけの仕様としては、センタースタンド、グリップヒーター、電源ソケット、ニーパッド、クラッチレスでアップダウンシフトできるKQS(Kawasaki Quick Shifter)を標準装備。特に最近のSTモデルセンタースタンドを搭載しているものは少なくなってきているのだが、この点は便利かもしれない。というのも、Ninja H2 SXはその特徴的なデザインから右側のスイングアームを持っていない。通常のスイングアームを使用して持ち上げるタイプのリアスタンドは使用できないため、メンテナンスの時にセンタースタンドを持っているとかなり手軽になる。車両の重量はスタンド分でSEの方が+4kg重くなっている。
5.発売時期、価格
気になる価格だが、日本での車両価格はSEで250万円程度と予想されている。スタンダードタイプは200万円強といったところだろう。H2が300万円を超えていたということを考えるとこれだけのスペックでかなり手が出しやすい価格になったと思うべきだろう。
また、日本での発売は2018年春とカワサキからアナウンスが出ている。H2同様、かなり生産台数も限られてくると予想されるため気になるユーザーは最新情報収集に努めたいところだ。
カワサキプロモーション動画